2017/03/03 16:49

前回の続きです。

大川周明の著作のうち、今回はアジア(海外)に目を向けた代表的著作「復興亜細亜の諸問題」「回教概論」を取り上げたいと思います。

 読んでいて驚くのが、本の内容が、まったく陳腐化していないというか、現代にもあてはまる国際情勢分析がなされていることです。よく、国際関係とか国際政治とかの本は、時代が変われば陳腐化して使い物にならない(冷戦期の情勢解説本なんかに多いですよね)ことがありますが、大川のこの著作はそういった古臭さを読んでいて感じません。

 書かれたのが、大正11年、昭和17年であるため、旧仮名遣いの読みにくさは若干あるのは致し方ないであろう。例えば、外国の地名などは現代仮名遣いと異なっており、アンゴラ政府→アンカラ政府 のように多少知識が必要な部分はあるが、ある意味、戦前の日本の方が、現在の日本より、世界的には政治的にも思想的にも大きな影響を与えていると思われる。大東亜戦争時における亜細亜解放のスローガンはある意味とってつけたようなところはあるが、半分ぐらい(それ以上?)は本気で思っていた節が感じられる。また、第一次世界大戦のベルサイユ講和条約時や国際連盟設立時に、日本が、人種差別撤廃を訴えた(実際は欧米連中によって斥けられたが)り、亜細亜解放のためにと称して、インド自由軍を組織したり、インドネシア、ベトナム、ビルマの独立勢力の支援をしたり、大東亜会議を開いたりしていることは事実である。もっとも単なる日本の国益のためのパフォーマンスにすぎないという側面もあるが、同じアジアの同胞としての連帯感のそれなりにあったのではないかと思われる。

 それ以外にも、太平洋戦争前夜に、アメリカで、「黒人よ、立ち上がれ、日本は有色人種差別撤廃のために立ち上がったんだ」とか言って、反米破壊工作をする話とか(「黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人」講談社アルファ文庫 出井康博)、モンゴル族や、イスラム教徒(回族、ウィグル族)と連携して、いわゆるABCD包囲網や中国、ソ連の共産主義勢力を打破しようとした話とか(「帝国陸軍見果てぬ防共回廊」祥伝社 関岡英之)、南進日本の「眼・耳・手足」となるべく、大川周明が中心となって設立した「東亜経済調査局付属研究所」で、東南アジア、南アジア、中近東に雄飛する人材(卒業後は軍属や独立支援みたいな活動が中心であったようではあるが)を育てた話とか(「大川周明アジア独立の夢」平凡社新書 玉居子精宏)、とにかくスケールが大きい。

 国防をアメリカに頼り切っている現在の日本よりも、ずっと独立覇気があるような気がしてならない。現在の日本は日本でそれなりの影響力発信力はあるのだろうが、戦前の日本の影響力の方がなんだかスケールが大きいなと感じる。歴史上過小評価されている部分にもう少し光を当てることも必要だと思われる。戦前の日本が単なる暗黒面ばかりというのはあまりにも一面的な見方に思えてならない。

 そういう意味で、大川周明の著作からは現在にも通じる日本の軸というか矜持を感じるし、いまだに新鮮感を感じさせる。

(大川周明の巻、終了。次回はまた別の思想家や著作を取り上げたいと思います。)