2017/02/13 11:23

前回紹介した通り、今回は大川周明の「日本精神研究」と「日本二千六百年史」について触れたいと思います。

 大川周明という人物ですが、日本の右翼政治思想家としては、国家社会主義者(いわゆる共産主義や無政府主義とはことなり、天皇制を基軸にした日本伝統に基づく社会主義的社会改革を志向するグループ)であり、かつ汎アジア主義者(欧米列強に対抗して、アジアとの連携、独立、人種差別撤廃を唱えるグループ)でもあります。彼の人生遍歴や思想的変遷、スタンスについては、「大川周明ーある復古革新主義者の思想」(大津健洋著 講談社学術文庫)に詳しく載っています。

 さて、「日本精神研究」と「日本二千六百年史」ですが、この2冊は、国家社会主義者の系譜の著書であるといえます。なお、彼の汎アジア主義の著作としては「復興亜細亜の諸問題」「回教概論」などがありますが、これらについては、別の機会に触れたいと思います。

 昭和2年に発行された「日本精神研究」ですが、横井小楠、佐藤信淵、石田梅厳、平野二郎國臣、宮本武蔵、織田信長、上杉鷹山、上杉謙信、源頼朝の9名の過去の偉人を取り上げて、日本精神の諸相を紹介し、日本精神の復興を唱えるものである。この中では日本人が本来持っていた道徳心や国、天皇を思う心について記述し、昭和の社会においてこうした保守、復古、日本人が本来もっていた精神性を取り戻すことによって、弱肉強食の資本主義、帝国主義を超越するという、大川の主張が感じられる。

 次に、昭和14年に発行された「日本二千六百年史」ですが、題名の通り、皇紀2600年にあたり、日本国の2600年史を振り返ろうという著作である。第1章序論、第2章日本民族及び日本国家、第3章から第30章までが、建国神話から満州国成立、東亜新秩序までの2600年史の概説となっている。一番重要なのは、第1章、第2章で、この中で大川は「改造又は革新とは、自国の善を以て自国の悪を討つことでなければならぬ。そは他国の善なるが如くを見ゆるものを借り来たりて、自国の悪に代えることであってはならぬ。」と、外国の模倣よりも、日本古来の特性を再度生かす(復古)することを主張している。また、大川は日本精神の特徴として、「入り来る総ての思想・文明に「方向を与える」ことである」として、中国から伝播した儒教等の思想や、印度から伝播した仏教等の思想を、咀嚼し、日本に取り込むとともに、本家では衰退したこれらの思想を正しき道に受けついでいると述べている。こうしたことを受けて「日本民族の最も光栄とする誇りは、(中略)寸毫だとも外来の影響のために、自家の眞面目を傷つけられざりし事である」「盲目なる崇拝は、吾等の断じてせぬところである。同時に偏狭なる排斥も、亦吾等の決して敢てせぬ所である」と喝破している。そして日本建国の理想を「あまつひつぎのみさかえ、あめつちとともにかぎりなけむ」とし、古事記・日本書紀に記されている皇統の萬世一系の理想としている。

 こうしたところに、大川の、皇統を重んじつつ、外来の文化を受け入れ咀嚼しつつ、盲目も排斥もすることなく、進歩してきた日本の伝統を復活させて、世直ししようという心が感じられる。  今回はここまで(続く)。